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2021 Spring and Summer Collection
BOSCH
2021 Spring and Summer Collection
CHAPTER
3
Inspiration from a Morocco-based photographer
02
ファインダーを覗き、肉眼で見ていた風景が切り取られる瞬間が好きだ。境界のない、曖昧さに満ちた世界に正しい領域が生まれ、色とかたちがひときわ際立つ。ただそれはとても不安定で、ほんの少しずらしただけでも、たちまちバランスが変わってしまう。
フォトグラファーという職業になってわかったのは、ほぼ誰も気にすることのないそのバランスを念入りに、かつ瞬間的に見分け、それを誰もがわかるかたちで表現する必要があるということ。ひとつの物体を、あらゆる視点から同時多発的に感じ取り、ギブする。それが自分の価値となり、結果として生きるための糧がもたらされている。
すべては、あの“ 気づき ”からだった。

彼女がシナスタジア(共感覚)の持ち主だとわかったのは、大人になってずいぶん経ってからのことだ。
思えば小さな頃から、世界じゅうの、ありとあらゆるものに“色”を感じていた。数字にも、文字にも、さらに味や匂いにも。たとえば7はブルー、Jはグレー、スパイスの香りはベージュに近いオレンジ、というように。それをさして特別だとは思わず、誰もが持っている当たり前の感覚だと思っていた。とりたてて口に出して言うほどのことでもない、と。

それはどうやら違うらしい、と知ったのは、ある金融系の企業に入ってしばらく経った頃だ。取引先の男性と名刺交換をした時、相手の名前から 感じた色があまりにも美しく「 きれいな色ですね 」と思わずつぶやいたことがはじまりだった。相手はそれを聞いて「えっ?」となった。そして恐る恐る聞いてきたのだ。「もしかして、それって......」彼は奇しくもその時、シナスタジアに興味を抱いていたようで、本などを読んで調べていたらしい。いわく、あるひとつの刺激に対し、通常の感覚とともに、また別の感覚も自動的に生じる知覚現象。その働きが意識にのぼる人は、世の中にはひと握りしかいないということだった。
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その後、彼女はひとしきり質問攻めにあった。「じゃあ本当の色はどう感じるんですか?」「もちろん色として認識します。ただ感じ方が、もしかすると敏感かもしれません」それは確かだった。好きな色とそうでないものが、すごくはっきりしてた。そう告げると、彼は言った。「じゃあ、モロッコは行ったことありますか?あの国の色は本当にすごい。あなたならどう見えるのか、とても興味があります」 偶然出会った人との何気ない会話から、運命の針が動き出すことがある。あの時が、まさにそうだった。その後彼女はまもなくしてモロッコに飛び、そこで胸を締め付けられるようなときめきと洗礼を受けたのだ。

世界が色で染めつくされている。

初めて降り立った時の、あの甘く蕩けるような感動を、今でも忘れられずにいる。首都のマラケシュは、通称「ローズピンクの街」。ここに佇むあまたの建物がピンク色で塗りこめられ、カラフルなモザイクとともに街じゅうが構成されている。国の条例で決められているという。
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11
街がカラフルなのは香港やスペインでも感じられたけれど、それとも明らかに違っていた。すべて自然から抽出されたというモロッコの色は、くすんだような大地の色が混ざり合わさっていて、アフリカの太陽という強いスポットライトを浴びることで、鮮烈な印象となる。さらに街じゅうに舞う砂の粒子がフィルターとなり、何層にも重ねられたような複雑な色あいを帯び、シックなムードさえ漂わせた。ただ「かわいい」「美しい」という言葉では解像度が足りない、と感じた。 そしてずっと目に焼き付けるうち、衝動的に「ここで暮らしたい。暮らさねば」という強い衝動を覚えた。その間、いろいろとあったけれど、今こうしてフォトグラファーとして仕事ができているのは、シナスタジアのおかげと言えた。 彼女は当初、街の風景をやみくもに切り取っていた。しかしそれだけでは、ついに飽き足らなくなってきた。「ここに違う色を足したい」と思っても、すでにある世界では叶えられないから。 そこで彼女は思いついた。“自分という色”をそこに足すのだ。
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09
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建物の壁などの前に三脚を立て、そこに調和するさまざまな色あいの服を纏った自分が立ち、タイマーで撮影する。いわゆるそのセルフポートレートは、やがて彼女自身のスタイルとして評価されるようになったのだ。そうした作品づくりの過程から、ファッションに興味を持つのは、しかるべくした流れだった。 彼女は洋服を選ぶ時「場に、どう自分という色を絡ませるか」を、強く意識する。たとえばパステルカラーにやさしいアイボリー、シャンパンのような輝きのあるベージュ。またタイルを意識したネイビーのジオグラフィック柄を取り入れることもあった。 またそれらをより、美しく見せるための「着姿」にも心が傾いた。姿勢を正し、凛とした気配を漂わせる。身体をひねることで、ゆらぎと繊細さを象る。ゆったりとした動き、メリハリのある動きを使い分け、状況に合わせて印象を切りまわす。 最初は作品づくりのためだった。けれど毎日のスタイリングや日常生活の姿勢にも気にかけるようになり、やがて当たり前の意識となった。 その日の撮影を終えた彼女は自宅に戻り、すぐさまPCを開く。今日はふたりの友人とオンラインツールでチャットをする日だ。
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彼女たちとは、同じアートスクールで知り合ったクラスメイトだった。現在はひとりがコペンハーゲン、もうひとりはニューヨークでそれぞれ、アーティストとして活動している。実際のところ、日本にいる時にふたりとは、頻繁に会う関係ではなかった。こうして離れて暮らす今のほうが、むしろ心が近く感じられる。 やがて画面にふたりの顔が現れると、彼女の心はじんじんと赤褐色に染まる。みんな、故郷ではない国で暮らすことを、自らの意思によって選んでいる。決して安定した暮らしではないし、文化や習慣の違いに打ちのめされることもままある。けれど少なくとも、これだけは守り抜いていた。
ちゃんと感じて生きている、と。
彼女は会社に勤めていた頃、たびたびこう言われていた。「それはあなたが感じたことでしょ?根拠は?もっと論理的に言ってくれないかな」「女性は感情で話す動物だからね」当時は、論理的に話せない自分にコンプレックスを抱いていたけれど、今はふたりのおかげで、そんな自分を肯定できるようになった。 「ありがとう」何の脈絡もなくそう告げると、ふたりは同時に、すべてをわかったような表情で微笑んだ。
BOSCH
2021 Spring and Summer Collection
10
Recommend Coordinates
17
18
COMBINATION [021-1140520] ¥35,200
CUT&SEWN [021-1160504] ¥9,350
NECKLACE [stylist’s own]
SHOES [stylist’s own]
19
DRESS [021-1140503] ¥31,900
SHOES [stylist’s own]
20
BLOUSE [021-1110510] ¥33,000
SKIRT [021-1120510] ¥28,600
NECKLACE [stylist’s own]
SHOES [stylist’s own]
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23
KNIT [021-1170505] ¥15,950
SKIRT [021-1120510] ¥28,600
NECKLACE [stylist’s own]
SHOES [stylist’s own]
24
KNIT DRESS [021-1175500] ¥25,300
PANTS [021-1130517] ¥19,800
NECKLACE [stylist’s own]
SHOES [stylist’s own]
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Page Down
Art Direction and Design YOSHIHIDE UCHIDA
Photography YUKI KUMAGAI
Stylist ARISA TABATA
Hair and Make-up SHINYA KAWAMURA
Model KATYA G
Writer MITSUHARU YAMAMURA