Scroll Down
Back to Top
2021 Spring and Summer Collection
BOSCH
2021 Spring and Summer Collection
CHAPTER
2
Inspiration from a Brooklyn-based paper artist
02
大鉈をふるうように、ものごとの善し悪しを一刀両断に決めつけることはできない。人種や宗教、ジェンダーで人を不用意に分け隔てるなんてできるはずがない。それは政治的正しさというより、ニューヨークにいると自然とそう感じざるを得ないシーンに、たびたび出くわすのだ。
彼女が暮らすブルックリンには、いろんな愛らしい個性を持つ人たちが暮らしている。たがいに心を寄せあいながら、自分の人生をひたむきに生きている。ルックスや文化的背景、嗜好もみんなてんでバラバラだけど、彼らはそれをあまり気にしていない。少なくとも、社会が勝手に決めたレッテルでは判断しない。
That’s so you.

彼らはこのセリフをよく口にする。そう、「あなたらしい」かどうかが最も重要で、かつ尊重される事項だった。
03
ペーパーアーティスト、という肩書きを名乗るようになって20年ほどになる。思えばかつては、ずっとレッテルを貼られどうしだった。日本にいた駆け出しの頃は、切り絵の大道芸人のようなものと間違われ、パフォーマンスを求められることもしばしばあった。やがて海外のアートイベントなどに招聘される時には、日本人らしさをやたら強調され「 着物を 着て出て欲しい 」と言われたこともあった。そのたび、彼女はやりきれない気分になった。そして半ば逃げるようにして、ニューヨークに居を移したのだ。

アートナイフを手に持ち、硬く鋭い刃を紙に当てる。左手で頻繁にまわし送りながら、下絵をなぞるように刃をすべらせていく。すると平面だった紙が、たちまち意思のある立体物に姿を変える。切り絵という概念を打ち砕きたい。人が見ているものごとの視座を拡張させたい。それを実現させていく過程には、今もワクワクする。どれだけ途方もない時間がかかっても、だ。
06
時計は夕方の5時を指している。早朝から半日ほど机に向かっていることになる。白くガランとしたアトリエがうすく暮れなずんでいる。窓の外を見ると、向かいのレンガの建物がさらに赤く、鮮やかに染まりつつある。

今日はこれくらいにしておこう。彼女は青く固いりんごを手に取り、シャクシャクと咀嚼しながら、シャワールームへと向かった。



ふだんアトリエにいる時、彼女はたいていシャツを着ている。スウェットよりも軽く、風通しもよく、むしろリラックスできると感じている。もともと取材や展示会の打ち合わせなどで来客が多く、近ごろはリモートで人と話す際にも、適度にちゃんとして見えるので都合がいい。


ただそれだけではない。パターンに対する興味だ。
06

12
洋服のもととなる、“パターン”と呼ばれる型紙。これをガイドにして布地を裁ち、縫製することで、数々の美しいルックが生み出されていく。逆に言えば、洋服という立体物はバラされることによって、すべて平面の「切り絵」の集合体に置き換えられる、ということ。その道のプロにとってはあまりにも当たり前の事実が、彼女にとっては息が苦しくなるほど の興奮と感動を呼び覚ました。
とりわけシャツは決められたルールがあるわりに、洋服によって着た時の印象がてきめんに変わるのが面白い。置いた時とも、ハンガーにかけた時の印象ともまた違う。その理由こそ、緻密なパターンメイキングによるところが大きいと聞く。

人間の身体はもともと複雑な、あるひとつのかたちをしている。さらに多様な体型がある。そのどちらをも十全に受け入れながら、時代の気分も 反映させ、あまたのスタイルを生み出すなんて、本当に神業としか言いよ うがない。そう、神業。これはよく自分の作品に向けて形容される言葉だ けど、彼女は洋服をつくる人にこそ、よほど当てはまる言葉だと思っていた。
11
09
そうしてさらに、洋服の世界へと深く傾倒するようになるのだった。
ヨーロッパでは、実際にボディに布を当て型紙を作成する「ドレーピング」が主流だけど、日本では紙の寸法に基づいて裁断する「平面パターン」が多くを占める、と聞いたことがある。理由は手間やコストが省けること、 仕上がりの安定感と言われるけれど、彼女はそれだけではないと感じている。紙から布へ、そして平面から立体へ。よりイメージの転換ができるイマジネーションとセンスを信じていること。また端正で美しい「紙」というものに対してのリスペクト。それらが合わさって、私たちの国ならではの文化が生まれているのだと。
10
11
12
13
ニューヨークの友人たちは、決して彼女を「日本人だから」という理由で判定しない。「だって私たち、肌の色が違っても、血の色はみんな同じだよね」というのが彼らの口癖だ。そうした包摂した考えがベースにあった上で、それぞれの人種が持つ文化の違いを賞賛してくれる。
「あなた自身の個性と、あなたのバックグラウンドすべてをふくめて愛しているわ」
そう。この言葉を彼女はずっと待っていた。

BOSCH
2021 Spring and Summer Collection
10
Recommend Coordinates
17
18
19
20
21
22
DRESS [021-1140405] ¥37,400
SHOES [stylist’s own]
23
24
25
26
27
Page Down
Art Direction and Design YOSHIHIDE UCHIDA
Photography YUKI KUMAGAI
Stylist ARISA TABATA
Hair and Make-up SHINYA KAWAMURA
Model OLGA
Writer MITSUHARU YAMAMURA